Sweet Lover

『朝香ちゃん』

佐伯は彼女を呼び止めた。

ようやく、落ち着きを取り戻せたのは、まだまだ自分に自由時間があると実感できたせいかもしれない。

『折角だから、それを生かした脚本に作り変える。
 撮影も、時系列にしよう。
 それならOK?』

朝香は一瞬瞳を丸くして、それからふわりと美しい花を思わせるような笑いを零した。

『そこまでしてもらうなんて、なんだか悪いわ』

『俺が勝手に始めることだ。君が気にすることは無い。
 ありがちなハリウッド映画っぽいのに日本で挑戦するのも面白いと思ったけど、それはまたにすればいい』

なにせ、俺にはまだまだ時間があるんだから――と、佐伯は心の中で呟いた。


頭の中ではもう、新しい構想が浮かびつつあった。

『もちろん、主演女優の体調は十二分に考慮させて頂きます』

丁寧に告げる佐伯に、朝香も頭を下げた。

『助かります、監督』

そうして、彼女は今度こそ部屋から出て行った。

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