Sweet Lover

『私、次の作品の主演、ちょっと難しい気がするの。
 だから、誰かと代えてもらえません?』

一つ年上の佐伯に対し、朝香はまだ、どういう口調で接していこうか迷っているようだった。

『――どうして?』

佐伯は首を傾げる。
当時は長めにしていた髪。その日は束ねてなかったせいで、さらりと揺れた。

朝香は躊躇いもせず、口を開いた。

『撮影中に体型が変わったら困るでしょう?』

佐伯は思わず彼女の艶やかな黒髪に目をやった。

『髪が切りたいってこと?』

『いやぁね、子供じゃあるまいし。
 ヘアスタイルくらい、我慢するわよ』

朝香は楽しそうに笑った後、同じテンションで続けた。

『子供が出来たの、私』

佐伯は思わず、指に挟んでいた煙草をぽろりと落としてしまう。

ノートから煙が上がり、こげた匂いが鼻につく。

『佐伯さん。
 折角書いた脚本が、燃えちゃうわよ』

朝香に指摘されて、ようやく煙草を拾う始末だ。