Sweet Lover

「教えてください。
 是非」

本気でそう言えたのは、私の中で過去に対するわだかまりが薄まってきたからだろう。

「『移ろう季節の中で―Missing you―』はね、最初、ああいう映画にする予定じゃなかったんだ」

それは、この前見た、ママ主演の映画のタイトルだった。

「もっと、こう――。
 ハリウッド系ラブコメに仕立ててみたくて。
 でも、あるとき朝香ちゃんがやたら真剣な顔で俺のところにやってきた」

以下、先生の話をまとめてみると、こういうことみたい。

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『佐伯さん、ちょっといいですか?』

黙って微笑んでいれば美人なのに、大抵は天然系発言でそれを台無しにしてしまう二階堂 朝香が、珍しく真剣な顔で声を掛けてきたのは、夏の終わりのことだった。

『何?』

部室の片隅でシャーペン片手に煙草を銜えていた佐伯 頼太は、手を置いて顔をあげた。