Sweet Lover

はぁ、と、彼はアメリカ人を思わせるオーバーアクションで肩を竦めて見せた。

「今日は完璧に演じたつもりなんだけど」

「私もそう思います」

「――そろそろ、影も返上かなぁ」

ポケットから煙草を取り出して銜えながら、彼は――つまり、響哉さんそっくりの格好をした佐伯先生は――、やれやれとぼやく。

「返上なんて出来るんですか?」

「今はまだ、当主じゃないから、なんとか許してもらえるんだろ」

「――それって、つまり、例えば会長や響哉さんのお父様には影がいるってことですか?」

「――さぁ。
 影の存在自体が秘密だからな。
 じゃないと、影の意味が無いだろう?
 俺も自分以外のことは知らない」

全く興味はなさそうだった。
高級スーツの価値を省みることもなく、花壇のレンガに軽く座って、煙草に火をつける。