Sweet Lover

『ほら、見たか響哉。
 やっぱり他人のお前なんかより実の親の方を気に入ってくれている』

パパの声が、やたらと嬉しそうに響く。

『当たり前だろう、そんなの』

響哉さんは苦笑を浮かべて肩を竦めた。

『親に敵うなんて、思ってないよ、俺は。
 数多(あまた)居る他人という立場の男の中で、俺を一番気に入ってくれればいいだけの話』

言うと、響哉さんは肩に戻ってきた鳩をそっと私に見せる。

『ほら、マーサちゃん。
 触ってごらん?
 もう、怖くないよ』


そういわれた途端。
まるでそれが最初から決められていた合図だったかのように、私はパパから手を放す。

そうして。
伸ばされたキョー兄ちゃんの手をしっかり掴んでいた。

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変な記憶。

だいたい――。
パパと結婚したいなんて、どういうことかしら。


「マーサ」

耳に心地良いテノールの声が、私の思考を遮った。

顔をあげると、スーツ姿の響哉さん。

「あれ?
 もう、明日が本番なんでしょう?」

首を傾げる私に、

「そうだよ。
 でも、マーサの笑顔を見ないと、気持ちが乗らない」

響哉さんはそう言って、私の頭に手を伸ばした。