Sweet Lover

「先生は、躊躇いなんて言葉とは無縁そうですね」

私は相談相手を間違えた気分になって、軽くため息をついた。

「もちろん、響哉の辞書にもそんな文字は無いぜ」

「――でしょうね」

「だから、真朝ちゃんも捨てちゃえば?
 そのくらいで、響哉と仲たがいするとは思えないし」

先生はそこで言葉を切って、唐突に顔を近づけてくる。

「……な、何ですか?」

私は慌てて一歩後ろに退いた。

「いや、別に。
 これから、親戚になるっていうのに、先生だなんて呼び方、他人行儀な」

先生はそう言うと、お屋敷に向かって歩き出す。

「どうしても響哉とこじれたら、俺が代わりにもらってやるよ」


風に乗って届いた小さな呟きは、およそ、冗談だとしか思えなかった。