Sweet Lover

「でも、ちゃんと気を遣いあってないとちょっとすれ違っただけで大崩壊する事だってあるじゃないですか」

「何それ。
 昨日のカルロスの言葉を気にしてるの?」

先生は短くなった煙草をケータイ灰皿に入れながら、ため息をついた。

「カルロスの言葉だったり、梨音と響哉さんの確執だったり――。
 色々です」

「はぁ、それはそれは」

くしゃり、と。
響哉さんの真似をするかのように、佐伯先生が私の頭を撫でた。

「お嬢様は、四方八方に思考を巡らせなきゃいけなくて、大変だねぇ」

先生はにやりと形の良い唇をゆがめた。

「でも、俺に言わせれば、そんなの全部捨てちまえって話だよ」

「――え?」

「そんなに良い子を気取ってどうすんの。
 響哉ほどワガママなのは人としてどうかと思うけど、さぁ――。
 真朝ちゃんの場合は、もっと、自分の考えを押し付けたほうがいいと思うよ。
 今なら何を言ったってやったって、若気の至りで許される時期だし。
 躊躇いを知るのは、早過ぎるんじゃないかな」