「あ、でも結局お父さんにはまだ言ってないの」

「どうして?」

響哉さんは歩みを止めて、私を見下ろした。

私は一瞬言いよどんだ後、口を開いた。


「――お父さんを傷つけそうで」

響哉さんはくしゃりと私の頭を撫でる。

「大丈夫。
 啓二くんのことは良く知らないけど、マーサを見てれば分かる。
 そんなことで、傷ついてめげるような人たちに育てられた子には見えないよ」

でも――。
うちには遺影も無い。

私が事故のショックで、両親のことを大半忘れ去ってしまったこともあって、あの家で実の両親の話題が出てきたことなんて一度もなかった。

弟なんてきっと、私が姉でなくて本当は従姉(いとこ)だなんてこと、知らないに違いないわ。


なのに、今更――。
パパの話題なんて、言い出しづらい。