響哉さんもそうだったのか――。

沈黙が訪れた途端、その黒い瞳を切ない色に染め上げて胸の中に私を抱き寄せる。

「マーサのお陰で、ようやくここに入る決心がついた。
 初めてあの女とまともに喋った気がするよ」

あの女ってことは、響さんのこと――だよね?

「真朝の名前を真一に提案した頃は、知らなかったんだ。
 まさか、俺の名前も親からもらったものだってね」

響哉さんは苦いものでも吐き捨てるように言う。
20年近くも、母親の名前を知らなかったなんて。

――須藤家って、本当に、変。

「でも、響哉さんに似て美人だわ」

私の言葉を、響哉さんは聞き流す。
そうして、一際慎重に切り出した。

「マーサ、しばらく――あのイベントが終わるまで――ここで暮らしてくれないかな?」

「響哉さん、時間が取れたらここに寄ってくれる?」

「おや――意外と淋しがりなんだね」

響哉さんは私の真意に気づかないふりを決め込んだのか、ゆっくり顎を持ち上げて、目を細めながらそう言った。

そうして、触れるだけのキスをしてから、付け加える。


「もちろん、時間を取ってここに来る。
 残念だけど――。
 ここより安全な場所を知らないんだ。それとも、俺の傍に居る?」