「あら嫌だわ、頼太くん。
 十数年ぶりに娘に逢うのに、どうして私が遠慮しなければいけないの?」

黒のロングドレスにも似たワンピースを着た女性が、優雅に玄関から出てきた。

シルエットで見る限り、細身で、長身で、長い髪にはウェーブがきいていた。

艶っぽく貫禄を帯びたやや低い声が印象的。

「それは――。
 彼女は大変な目にあったばかりだからですよ、響(ひびき)様。
 察しては頂けませんか?」

「まぁ、頼太くん。
 須藤家の人間が一番してはいけないことよ、それは。
 他人のことを考えていては、身動きが取れなくなってしまうもの。
 真朝さん、久しぶりね。
 こんなところに突っ立っていたら風邪を引いてしまうわよ。
 ほら、早くおあがりなさい。夕食は?」

「まだ、ですけど――。
 食欲が無いんです」

私は俯きがちでそう言いながらも、その女性について家にあがった。