「ごめん、マーサ。
 人に将来の仕事を考えろって言ってる大人が仕事さぼりっぱなしなのは良くないと思って、ちょっと心を入れ替えてみることにしたんだ。
 週末に働くのは主義じゃないけど……。
 行ってきていいかな?」

いつもいつも、ケータイ電話を電源ごと切って投げ捨てる響哉さんにしては珍しいほど、大人な意見に私はこくりと頷いた。

もっとも、ただ単に、仕事の期限が差し迫っているからだとは思うけど。

「お仕事頑張って」

「ありがとう。
 ……それとも、一緒に来る? 独りで留守番させるの心配なんだけど……。
 頼太を呼ぼうか?」

「ううん。 
 先生だって、週末くらい自由な時間が欲しいんじゃない?
 私、ここで宿題やってるから心配しないで行ってきて」

小さな子供に独りで留守番させるわけじゃあるまいし。

響哉さん、本当に過保護なんだから。

響哉さんは名残惜しそうなキスを私に残すと、必要な書類をまとめて、部屋から出て行った。