Sweet Lover

私は、彫刻にでもなったようにじっと息を潜めてしまう。

一瞬見せた、あの怯えたような瞳――。

そういえば響哉さんは、尾行されても、家に誰かに押し入られても、冷静な判断を下していた。


――そもそも。

普通に車を運転していて、そう簡単に尾行に気づけるものなのかしら。

玄関のドアを見るだけで、人に押し入られた形跡なんてわかるものなのかしら。

どちらも、普段から注意してなければ分からないことに違いない。玄関にはきっと、何らかの仕掛けがしてあったんだわ――。日常的に。


『俺の人生に君を巻き込んでも、いいかな?』

保健室で耳にした、響哉さんの躊躇いがちの言葉の意味はこれだったのかしら――。


須藤家の次期当主たるもの、『平穏な日常』とは無縁ってこと――?