「……な、何言ってんの?」

さして冗談でも無さそうな話に私は目を丸くする。
春花さんって、本当、大変なお仕事してるのね。

「何って、本当のことだろ?
 それとも、俺が居なくても平気ないの?」

……って。
  急にそういう、突然留守番を命じられた子犬のような瞳になるのは、反則ですからっ。

二の句がつけない私の唇を、響哉さんがその指先でそっと撫でてから、再び言葉を紡ぐ。

「握手会も、マーサが妬くから嫌だって断ったのに。
 今更、チケット回収できるわけ無いって喚(わめ)かれちゃって。
 ……ごめんね、マーサ」

言うと、響哉さんはそっと私の唇に触れるだけのキスを落とした――。


そう、念願の、優しさだけで作り上げたような、甘いキス――。