Sweet Lover

「……もしかして。
 ソイツの正体、知ってるの?」

目を丸くする響哉さんに、ヘンリーさんは再び穏やかな笑顔を見せた。

私には正直、抽象的な話が続いていて、イマイチ全体像が見えてこない。

「いいえ。
 でも、響哉様の車を見張られている何者かが、私が置いた手紙をチェックすることは予測済みでしたから、偽の手紙で気を引いておきました。
 今頃はもう、手中に落ちているのではないでしょうか?」

ヘンリーさんの口許には、少年を思わせる無邪気な笑みが浮かんでいる。

「相変わらず、ヘンリーには敵わないな」

「当然ですよ。
 おぼっちゃまに負ける日は、私が引退するときです」

言うと、ヘンリーさんは優雅に立ち上がる。

椅子から立つだけなのに、こうも無駄の無い動きが出来るのかと感心してしまうような、身のこなしだ。