Sweet Lover

「Ready(準備して)」

私は奥歯を噛み締めてこくりと頷く。

「Go!」

響哉さんは一際楽しそうにそういうのと同時に、思い切りハンドルを切った。
耳をつんざくような音が、下から響く。

響哉さんは180度方向を変えると、ひょいと隣の斜線へ移って何でもないかのように走り出す。

まごまごしているカローラが、瞬く間に視界から消えていった。

「いつか出た映画でこんなのやったんだ。
 どう? ぶっつけ本番にしては上手くいった方だよね」

響哉さんはマンションに辿り着いてから、そう言った。

私は頭の中がぐらぐらして、胃がむかむかして、それどころではない。

私は管理人室でトイレを借りて、胃の中のものを全て吐き出した。