Sweet Lover

「キャアっ」

「マーサ。
 舌を噛むから黙ってて。それとも、タオルでも噛む?」

響哉さんはくすりと笑うと、乱暴にハンドルを捌きながら、片手で私の頬を撫でる。

「もぉ、口開かないから運転に集中してっ」

「はいはい」

緊張している私と真逆の余裕の笑みを浮かべると、響哉さんはちらりとバックミラーに目をやり、形の良い眉を微かに潜めた。

「コックローチ並にしつこいヤツだな」

乱暴にそう言い捨ててから、ころりと声音を変える。

「本当に次は、悲鳴なんてあげちゃ駄目だよ?」

いい子だから、ね、と。
まるでベッドの中にでもいるかのように、場違いなほど甘く優しく囁かれるが、ここは高速で暴走する車の中。

響哉さんは信号の変わるタイミングまで分かっているかのように、一度も信号に引っかからずに、数ある車を避けながら進んでいる。

パトカーが追ってこないのが不思議なくらいの暴走車の中に居る私は、こくこくと頷くほかない。