「だからって、明日から父の仕事がなくなったりは……しませんよね?」

俺は思わず梨音の頭を撫でる。
そこに居るのは、本当に小さな子供で……。

それはそうだ。
20歳も人生経験の違う人間に、同じ視野を求めるなんて、無茶な話。

自分の至らなさにため息をつきそうになって、慌ててそれを噛み砕く。

「誤解があるようだから、言っておく。
 磯部氏が役員になったのは、彼の実力だ。
 梨音ちゃんが、真朝の様子を見続けてくれたことには感謝しているけれど――。
 それとお父さんの出世とは何の因果関係もない。
 でなきゃ、部下がついてこないだろう? 娘のお陰で役員やっているような人間に、誰がついていくと思う?」