Sweet Lover

「それから――。
 ざっくり途中を飛ばして、大学時代の話をしようか。
 俺も母に似て――っていってもロクに逢ったこともないけれど――あの化け物のような家を継ぐなんて気は全くなかった。
 けれども、周りはそれを許してくれるはずもない」

そこまで一息に話してから、響哉さんは私を見て、この話をスタートさせてから、初めて困ったような笑みを浮かべた。

そうして、私の髪をかきあげると、コツンと額をぶつけてきた。

「……ゴメン、マーサ。
 ここからしばらく、佐伯に話してもらって良い?」

息が触れるほど近くで、囁く響哉さんの声からは、何かに怯えるような色が微かに滲んでいる。

駄目、なんて残酷なこと当事者でもない私に言えるはずなんてないじゃない――。