「……お前、よく36にもなって、そうもメルヘン界の住人でいられるな」

ついには禁煙のはずの保健室で、煙草に火を点け始めた佐伯先生が、呆れて言葉を吐き出した。

「俳優なんて、メルヘン界から卒業したらやってらんない職業だろ?」

ねー、監督。
なんて、冗談めかして響哉さんが笑う。

その一言で佐伯先生の顔色が変わった。表情も一転、とても険しいものになる。

「……まさか、この期に及んでまたハリウッドに戻るって言うんじゃないだろうな」

「言っただろう?
 俺は今オフだって。
 普通、オフが終われば誰だって自分の職場に戻るだろう?」

響哉さんは何食わぬ顔でそう応えた。