返事をしないでいると、勝手にドアを開けてはいってきた。

私は鏡を見たまま、髪を乾かし続ける。
鏡越しに見た響哉さんの表情は、いつもと同じ甘いもので私は思わず目を逸らす。

「マーサ、貸して」

「……私は自分で出来るから、平気。
 ペギーの面倒見てあげたら? 父親なのよね」

絶対に泣いてなんてやるものか! って思いながら口を開いたら、やたらと平淡な口調になってしまう。

それなのに、何故か響哉さんは幸せが思わず零れたような、蕩けるような笑顔を浮かべた。

「あれは、マーサが俺のことをお兄ちゃんって呼んでいたのと、同じ。
 ただ、そうやって呼んでいるだけで、俺は本当の父親じゃない」