Sweet Lover

「あ、……梨音、ごめん。
 ありがとう、大丈夫だから」

私は消え入りそうな声で言うのが精一杯。

「人前でいちゃつくほど、元気があるなら、とっとと帰れ」

佐伯先生の言葉に、響哉さんはにこりと笑う。

「はいはい。
 マーサ、行こうか」

響哉さんが遠慮も躊躇いも無く私の手を掴む。

「……響哉さん?」

廊下を出たら、他の人に見つかっちゃう。
私は慌てて手を振りほどく。

「本当に照れ屋なんだから。でも、そういうところも可愛いよ。
 いいよ、ついておいで」

それから、くるりと佐伯先生を見た。

「今日はじいさん、終始外出だったよな?」

「……多分な」

佐伯先生はそっぽを向いたまま、手のひらで煙草を弄んでいる。