私は急いで地下の駐車場に向かう。
来客用スペースで、黒のスカイラインGT-Rに乗り、いらつきを隠さない顔で、煙草を銜えているのが佐伯先生だった。

「おはようございます、すみませんっ」

滑り込むように助手席に乗ると、すぐに車を走らせる。

「……で、彼氏は見送ってくれないわけね?」

呆れたように肩を竦めた。

「響哉さんは、記者会見の準備があるって――。
 そんなに、人気なんですね」

「なにそれ、ノロケ?」

「いえ、そういうわけじゃなくて――。
 私、スドキョーって言われても、全然ぴんと来なくって」

「へぇ、アイツが出ている映画見たことないんだ」

「ええ、全く」

「数年前、とある映画に出たわけよ。
 もちろん、主役じゃなくて、ありていに言えば当て馬チックな役ね。
 その中で、特に東洋から来た医師が、結婚式中のヒロインを主人公から奪うっていうシーン。
 映画としては使い古されたようなシーンだっていうのに、何故か、ネットかテレビかで、すっごくクローズアップされてさ。……相手役が有名な女優だったからかもしれないけどさ。とにかく、そっからブームに火がついたってわけ」

……今朝、流れていた映画のことだわ、と、私は思う。