私の驚きを察知したのだろう。春花さんはくすりと笑う。

「仕事とプライベートで雰囲気を変えるのは常識よ?
 それに、真朝ちゃんは社長と違って私を困らせたりはしないでしょう?
 実は私、料理苦手なんだけど、麻婆豆腐の素を使ってちゃちゃっと料理してもいいかしら」

「もちろんです。
 母も良く使ってますよ」

私がこくりと頷いたところ、一瞬、春花さんの動きが止まった。


そっか。
知ってるよね、本当のこと。

「あの、もちろん義理の――」

言いかける私を春花さんが遮った。

「真朝ちゃんのお母様も使ってらしたのね。それは助かるわ。
 ねぇ、甘口と中辛、どっち使ってたか覚えてる?
 好みが分からないから全部買ってきたんだけど。」

言って、春花さんはずらりと並べた。

私は唖然とする。
だって、普通、同じシリーズの違う味付けだけ買って置けばそれで十分じゃない?

でも、春花さんは、目に付いた「麻婆豆腐の素」全部買っちゃったみたい。

私はその中から一つを選んだ。

「これを良く使ってたわ」

「そう。了解」