「……また来たのか」
「そんな嫌そうな顔しないでよー」
眉をひそめながら、目の前の男性は言った。しわの刻まれた顔は彼の厳格さを表しているようだ。
「今度は何の用だ」
「お願いがあるんだ」
男はため息をついた。心底迷惑そうに。
「金なら振り込んだぞ」
「知ってる。それじゃない。
一人、転勤させてほしい警察官がいるんだ」
「……」
「須磨圭吾。それなりに有名でしょ? よく物壊して始末書書いてるし」
「大阪になら転勤させてもいい」
「まぁそこでいいや」
大阪。日本第二の都市と呼ばれることもあるほどだから、人も多い。きっと事件だって多いだろう。
そんな忙しい毎日の中なら、きっとすーちゃんも私のことを忘れるんじゃないかな。
「ありがとう、警視総監殿。また来るよ」
「二度と会わないことを願う」
「あはは、面白い冗談だ」
冗談ではないことはわかっている。皮肉だ。
ドアノブに手をかけて、一度振り向いた。
「そういえばさ、この間殺し屋が来たんだけど、まさかあんたが頼んだわけじゃないよね?
血の繋がった実の娘を殺す親がいるわけないもんね」
「そんなこと、するわけないだろう」
自分の口角が上がっているのがわかる。
知ってるよ。あんたが私を邪魔だと思っていることも、幼い頃から私を殺そうとしていることも。
「だよねぇ。
たとえ私が望まれない子で認知されていないからって、まさか殺そうとなんてしないよねー。
実の娘だもん、揺すられようと脅されようと殺そうとするわけないよねー」
男は舌打ちをした。
「まぁ無駄口はここまででいいや。
須磨圭吾のこと頼んだよ。じゃあね」
私はやっと部屋から出た。


