「あ、私今から次の仕事あるんで、この辺りで降ろしてください」
岡村さんに頼む。岡村さんは運転手に言って道の脇に車を停めてくれた。
次の仕事と言うのは嘘だけどね。
流石にヤクザがうちの近所に来たら、ご近所さんびっくりしちゃうでしょ? 配慮配慮。
「まだ仕事あんのか。大変だな」
「忙しいのはいいことですよ。情報屋なんて、明日のわが身もわかりませんし」
「そう思うなら足洗えばいい」
「あはは、そういうわけにもいきませんよ」
黒塗りのベンツから降りた。
春と言えど夜は少しだけ肌寒い。パーカー着ててよかった。
「送っていただきありがとうございます」
「こっちこそ助かった」
「また何かあればご連絡を。今後ともご贔屓に」
「お前に回す仕事がないのが一番なんだがな」
「あはは、それではさようなら。気をつけてくださいね」
私は営業スマイルで小さく手を振りながら車を見送った。


