「嬢ちゃん?」
再度声をかけられてハッとする。そうだ、岡村さんと話していた途中だった。
「岡村さんはヤクザになって後悔してるんですか?」
「いや。俺にはこれしかなかったし、今時仁義を大切にする仕事なんて他にないからな。
だが、もし俺の子がなりたいって言えば殴ってでもやめさせる」
「いいお父さんですね」
そんな父がいてくれたなら、私も別の私だったのだろうか。
……いや、変わらないか。これが私だ。
「私がありたい私でいる為には、こうあるべきなんです。
表の世界じゃ、私は受け入れられていませんしね」
望まれない存在。千葉ほのかも、神様も。
私を必要とするのは、情報を買いたい人と、死ぬほどの絶望を知った人だけ。
だけどそれでいい。周りがどう思おうと関係ない。とにかく死ぬまで、私は他人に幸せを与えると決めた。
「ありたい自分?」
「ええ」
私は柔らかく微笑んだ。
これ以上話す気はない、という意思表示だ。岡村さんは賢いから、これで十分わかってくれる。


