「ああ、夜野。」

ふいに呼び止められ、
首から上だけ

彼方先生の方に向けた。

「今夜、
例の件で
そちらに出向くと
香澄に伝えておけ。」


「えっ?
今夜ですか…?」

「…そう伝えれば
解るはずだ。」

それだけ言うと、
椅子をクルリと回転させて、

机の方を向いてしまった。

……。

まあ、
オレには理解出来ないけど、

こいつが来ると
兄貴も なんだか嬉しそうだし…


伝えるだけなら
別に頼まれてやるか…。


彼方先生の
高飛車な態度は

今に始まった事でも
ないから、

今の態度も

ムカつく事には
ムカつくけど…。

はー。
オレも
大人になったよなぁ…。


「……。
まだ、いたのか…。

バナナが足りないなら
また、貰ってくるが…。」


「けっこーですっ!」

廊下に出て、
後ろ手で保健室のドアを
思いっきり閉めてやったけど、

間抜けな事に、
自分の手が痛くなっただけで、

たいして勢いのいい音は
出なかった。


オレは、それから
案の定、教室で待っていた凛と一緒に

少し遅めのペースで
帰宅した。