練習試合が始まると、楓は湊と関係なく、試合を楽しんでいた。でも、気づけば湊に視線が行ってしまう。一番上手で、一番目立つ。
目の前に来たとき、推定を超える大きさだった。180㎝あるかないかだと思っていたら、180は超えていた。
湊がシュートを決めると、女子の歓声は一際目立った。みんな湊が目当てなのか。
それはそうだ。あんな良い男そうそういないだろう。いや、聖輪ならいっぱいいるんだろうか。今は関係ない。
試合が面白くて仕様がない。どんなに湊に目が行っても、他のプレーもちゃんとみる。練習試合中、楓はどっちの応援もしていた。
素晴らしいプレーをしたら、周りが黙っていてもすごーい!と行ったり、相手側のチームに点が入っても、拍手をしていた。

「あー、楽しかった!!接戦だったし」

楓は、試合が終わるとそう言って伸びをした。小春もにこにこ笑っていた。

「楓ちゃん、凄く楽しんでたもんね!」

「いやぁ、皆上手なんだもん!白熱したー!」

楓は眼をキラキラ輝かせていた。ベンチから湊が楓を見つけた。それはそうだ、一番近くにいるのだから。
そして、近づいていく。
楓は一息つくために椅子に座り込んだ。湊はくすくす笑った。周りの女の子に睨まれているのがわかる。
こないで、別に貴方に興味はないの。私は貴方のプレーに興味があるの!
胸のなかでは言えるのに、言えない。

「あんた、凄い白熱してたね。なんか応援されて元気になった」

「…そう?!」

極度の緊張した。駄目だ。この人の顔はとても綺麗だけれど、自分は好きになれない。
なんでこっちに話しかけてくるのよ。中学校の頃に懲りている。バスケ部の男子と仲が良くて、
それで女子から厳しい目を浴びせられた時期があるが、結局自分は男子と同じ立場になっていったので、それはなくなった。

「なに、あの子。馴れ馴れしく湊くんと話さないでよね」

まぁ、それくらい言われてるか。湊なんてきっと追っかけが多いはずだし。ぼそっと誰かがいった言葉に湊が反応した。

「いま、誰が言った?馴れ馴れしくしてるのはこいつじゃなくて俺だけど」

湊は周りを睨みながらそういうと、周りから女子はいなくなっていった。楓は湊の威圧感に圧倒された。

「あ、ありがと」

楓が湊の顔をしっかりと見た。さっきの威圧する顔とはうってかわって明るく優しく笑った。

「やっと目があったな!」

「あっ…ごめん。君のプレーは自然とおっちゃうんだけどさ、
顔が良すぎて視線合うと困っちゃうんだよね。怖いっていうかさ」

楓は正直に答えた。
湊のプレーは、あの人に似ていた。いや、それ以上だ。
本当に、見てて格好いい。とても鮮やかで皆を魅了する。

「別に、俺さ、自分から話しかけんの初めてだから…怖がられるとちょっと傷つく。
っていうか、お前の事知ってたんだよ?気になってたんだ。女子であんなに上手いヤツいるんだなって」

港が顔を赤くしながら言った。言動は男らしくて、顔が綺麗で皆の理想の男の子なのに意外だった。
でも、こんな湊を見られたのは、自分の特権なのだろう。楓はくすっと笑った。
なんだ、普通の男の子だ。そう思ったら安心した。気になってくれていたのも嬉しい。プレーヤーとして見られていたことがとてもうれしい。ちょっと『馴々しく』なっていいだろうか?中学校にいた男子となんら変わらない。この人ともっと仲良くなりたい。純粋にそう思った。

「…そうなの?なんか嬉しい!『馴々しい』かもしれないけど、私でよかったら友達になってください」

楓は告白をするみたいに頭を下げて右手を出した。
これはジョークだ。中学校のころによく友達とやっていた。
湊は、くすくす笑った。面白い子だな。とそう思った。

「俺でいいなら」

湊は告白に答えるようにそう言うと、楓は良かったー!と座り込んだ。

「そう?嬉しいな」

湊は、終始楓の態度に笑っていた。
楓は知らないだろうが、湊は楓の事を中学校から知っていた。
ずっと強いと言われていた女の子。彼女はいつも美しいプレーをする。
女子のプレーを綺麗だと思ったのは、それが初めてで、その子が高校に入って
まさか週に1回会えるようになるとは思わなかった。
貸してほしいと言われてから、こっちにくるようになってから、楓をよく見かけていた。
ここはかっこいい男子ばかりで女子は出会いを求めてくるのに、
楓は見向きもせず純粋に部活を楽しんでいるのを見ていて良いと思っていた。
たまにボールを見ながら切ない表情をするのがとても気になった。
それを、楓は知らないのだろう。湊はずっと楓のことを気になっていたのだ。
楓は湊と別れると、優衣と寮に帰った。今日は本当にいいことがあった。
あんな男子と友達になれたなんて、この先の運を全部使ってしまったかもしれない。それでも良かった。

だって、もう運なんて使い果たしてしまっても構わなかったから…。