次の日曜日、練習試合は11時~らしい。
優衣と2人で9時くらいには聖輪を訪れた。広い校舎だが体育館を見つけるのは簡単だった。
1回行ったので、楓はすぐにたどり着くことが出来た。聖輪の体育館は、観客席があり、小春と2人でベンチが近い場所に座った。
まだ、誰もいない。そりゃあ2時間も前にくればいないだろう。バスケットボールは準備してあり、それでも誰もいない。
楓はコートに立ちたいとうずうずして、観客席からコートに出て行った。靴と靴下を脱いで、ボールを取る。

「楓ちゃん?!何するの?」

優衣が慌ててそういうと、楓は生き生きした顔をしていた。裸足の感触だと変な感じがするが、でも体を動かせて嬉しい。

「ちょっと練習!どーせ後2時間もあるんだし、誰もいないでしょ?」

楓は、そういうとゴールまでいって、綺麗にシュートを決めた。
昔から、楓はバスケットボールをしている。だから、清蓮のバスケ部の誰よりも強くて、格好の良いプレーヤーだ。
気さくな性格で、男っぽく、入学当初は男の子みたいに短い髪の毛でとても人気があった。
今もそれは変わらない。小春が目を輝かせながら楓をみていた。
格好良くて、バレンタインでは、学校のファンからも貰い、他校のファンからも貰っていた。
楓は自覚がないらしいが、男子にも女子にもモテるのだ。優衣はそれを知っていた。
楓はバスケットボール部では小さいほうだが、動きが素早くてガードが出来ないといわれていた。

「うわー。楓ちゃん凄い綺麗に決まったね!!」

優衣はウキウキしていた。

「いやいや」

「へー上手いな」

男の子の声がした。楓は動きを止めて、声がする入り口をみた。ぷいっとそっぽを向く。
目があったら真っ赤になると確信していた。綺麗な顔なんだとわかる。それは、プレーを見ているときにも思っていた。
こんなに綺麗な人と、一瞬で目を追ってしまうような人に話しかけられている。
きっと、光栄なことなんだろうけど、楓にとってはただ緊張するだけだった。
というよりも、ここまでドキドキするとは自分でも思わなかった。

「名前は?」

かかんで顔をのぞきこまれる。そっぽを向く。

「…神山楓」

「俺、奥出湊!バスケ何年やってんの?凄い綺麗にシュート決めてたな」

「小学校1年から…」

「へー!」

にっこり笑われて、楓は耐えきれなくなってボールを渡して戻って行った。
終始俯いていたので顔はまともに見られなかった。
楓は、小春の隣の席に座った。湊は1人で練習を始める。
楓はぼんやりと湊を見ていた。眼なんて合わせられないのに、離れたら湊を自然と目で追ってしまう。
本当、全部の動きがしなやかでうらやましい。上手でいいな。
部員が来て、一緒に練習したり、休憩でちょっと遊んでるのは、男の子らしい。
気づけば、女子はたくさん来ていた。流石美男子の多い聖輪だ。
しかも、偏差値もかなり高いので、将来優秀な人しかいない。
皆は練習試合をみているんじゃない。たぶんそれぞれ目当ての男子がいるんだろう。
どの選手の動きもしなやかで、強豪校なのはわかる。
でも、違う。もっともっと上手な人を楓は知っていた。
女の子として見てほしいのは、たった一人。
そんなどうでもいいことを考えては、楓はため息をついた。
優衣は、楓が切ない顔をするのを首をかしげて見ていたが、話しかけられなかった。