ココロノキズアト



最近のはるきはそっけなかった。
まさかとは思ってた。
付き合う前からはるきの「プレイボーイ」って噂は聞いてたし、
彼氏を知るための10のこと!の本にも、
最近そっけないのは浮気か慣れって書いてたし…。

でも、
頭の中では疑ってたけど、
気のせいだと、はるきがそんなことするはずないと、自分に言い聞かせてる自分がいた。
はるきが好きなのか、ただたんに自分から別れを告げたくないからなのか
それはよくわからないけど。



ハッと我にかえったときには、私ははるきの家の前にいた。
はるきが今家にいないのは知ってる。
それをわかってて私は震える指でインターホンを鳴らした。


「はい。」


インターホン越しに聞こえてきたのはもうすっかり聞き慣れた声。
やっと出た声はかすれた声だった。


「……はやと…………」

「…藍?」


一瞬時が止まったかのように思えた。
でもすぐに時間は再生されて、颯斗は慌てた足音をたててドアを開けた。


「どうしたんだよ。」

「は、やと……」


感覚はなかった。
でもかすかに、今の私の瞳からは大量の涙が溢れてるんだろうということは確信できた。
颯斗の顔を見ると、ずっと押し殺してきた感情が、涙とともにあふれてきたんだ。


「何泣いてんだよッ…!」

「はるきが、はるきがね…他の女の人にちゅ、してたの……っ」


苦しくてまともに息ができなくて
言葉が途切れ途切れになってしまう。
私は颯斗に抱きつくと、胸に顔をうずめて声をあげて泣いた。
颯斗は何も言わずに、静かに、そして優しく私の頭を撫でてくれた。


颯斗ははるきの弟で、
誰よりもはるきを知ってるから颯斗は私の一番の相談相手だった。
親友以外に唯一心の開ける人で、逃げ場で、あたたかい居場所だった。
はるきと私は年が離れてるからタメの噂話を面白おかしく話せないし
頭のよくないはるきには勉強を教えてもらったりもできない。

けど颯斗は、
私と同じような音楽が好きでファッションで似たような見方で、
颯斗とはるきといる時は、はるきの隣にいながらも颯斗と話をして盛り上がってたんだ。
そんな颯斗だからこそ私は心を開けたのかもしれない。


「私、はるきと別れるべき、なのかな
…」

「お前がそうしたいんならそうすれば?」


颯斗はいつもこう。
アドバイスを少しくれたら、あとはお前の好きにしろって感じ。
他人に指図されたくない私にとっては居心地のいい相談相手だった。


「別にはるきと別れたくないんなら別れなきゃいいだろ。
その代わりお前は今よりずっと傷つくことになる。
それが嫌なら無理にでも別れるんだな」

「そう、だね…」


わかってた。いつかはこんな時が来ることくらい。
でも人間って悲しいもので、
一度好きになって付き合ってしまったら
ずっと一緒にいられると勘違いしてしまうんだ。