でも俺は見たよ。美虹さんが泣いているところを。
誰も来ない階段で、一人声を押し殺して泣いてたな。
俺が見てることに気づいてとっさに顔隠して涙拭って笑顔作って見せてきた。
人差し指を口元で立てて、『内緒』って真っ赤なはれた目で。

強がりすぎだよ。お人好しすぎんだよ。
俺、守ってみせるからさ、俺のこと見てよ。
絶対に離したりはしない。必ず一生幸せにして見せる。
だからさ?お願いだよ。
俺のものになってよ。

「もう5時か…」
来なかったな。なんて少し落ち込んで、水筒をもち坂を降り始めた。
すると下から女の子が走って上へ登ってくるのが見えた。
その子は疲れたのか、道に座り込んでしまった。
肩で激しく息をしながら座り込む女の子に近づくと、顔をあげ俺を見た。そして目を点にして驚いている。
なんで驚くんだよ。驚くのは俺のほうだよ、美虹さん…