…突然、深夜に実家に帰った私。
当然、両親は驚いたわけで。・・・でも。

涙でぐちゃぐちゃな顔の私を見て、父は何も言わず、私を招き入れ、母は、私にホットミルクを入れてくれた。

・・・温め直してくれたお風呂に入り、その日は自分の部屋のベッドで眠りにつく。
しかし、眠る事などできるはずもなく、声を押し殺して泣く事しかできなかった。

朝を迎えても、涙は止まる事もなく流れ続ける。
そんな私を、両親は何も言わず見守っていてくれた。

…お昼を過ぎ、母が部屋にやってきた。

「…藍子、ご飯食べなくてもいいけど、スープぐらい飲まない?温まるから」
「・・・うん」

真っ赤な目を見でも、母は、優しい笑みを浮かべるだけ。


パジャマのまま、それをただ静かに飲むだけ。
母は、向かいの席で、雑誌に目を通していた。
・・・母はずっと専業主婦。子供の傍にいたいと、ずっと働く事はしなかった。

・・・母は、私にとって心安らげる場所だった。

・・・ピンポーン。
「あらあら、誰かしら」

雑誌を閉じた母は、玄関に向かった。
私は相変わらず、スープを少しずつ飲んでいる。


「…お母さん、どうしたの?」
困った顔の母が私を見つめている。

「…藍子にお客さんなんだけど、帰ってもらう?」
「…誰?」

「…大谷さんって方」
「・・・」

「…パジャマだしね、・・・帰ってもらうわ」
そう言って母は、玄関に向かう。

「待って・・・会うわ・・・」
その言葉に、母は、私をソファーに座らせる。

「その方を部屋に通すわ。・・・ママは、少し出るから」
鞄を持つと、母は玄関に向かって歩いて行った。