僕が黒、生一が白


もともと1人遊びが多く
パソコン相手にカートゲームやボードゲームをしていた自分にとって
この手の遊びは得意分野だ



しかも相手はこいつ
脳天気なアホに負けるはずはない




「そういえば…。」



生一がポーンを取りながら話し出した



「鄙の両親は何をしている方なんだ?」



一緒思考が停止したが平常を取り繕って


「両親はIT関係の会社を営んでいたけど
僕が生まれてすぐ死んだよ。」


白のポーンを取りながら答えた



「おっと、それはすまなかった。」


駒を進める生一



「それじゃあ僕と一緒だね。」



僕がボードから顔を上げると生一と目が合う



「え?」


「実は僕も両親が他界して居ないんだ。
その代わり養子に引き取ってもらったんだ。」



少し瞳に影を作りながら駒を進めた


次は鄙の番



「鄙には…兄弟っていた?」


唐突に聞かれ一時策略から会話に思考を
移した



「あぁ、双子の兄がいたが両親と一緒に死んだよ。生まれて、病院から初めて自分の家に帰る途中、交通事故にあってね。
僕だけ助かったってわけ。」


そう言いながら駒を進めた



「そうか…双子なら楽しそうだってろうね。
鄙くんが2人かぁ」


「そういうお前は居ないのか?兄弟。」


「居ないね、この家にほぼ1人だよ。
両親はほとんど会社に居ることが多いから。」


寂しいもんだよ、と笑いながら言う生一は
なぜか本当に寂しそうには見えなかった


「鄙は一人暮らし?」


「あぁ…」


「へー、炊事とか自分でしちゃうんだー」


ニヤニヤ笑いながら
鄙の手料理たべてみたーい、などと言っている


「絶対に嫌だ。まだ家に知り合いは1人も上がらせたことはないからね。」


実際そんな関係の人間はいたこともなかったから




「じゃあ、もし僕がこのチェスで勝ったら
手料理作ってくれる?」


チェスに自信のある鄙は嘲笑うように


「勝てるなら、好きなだけ訪ねるがいいよ。」


と答えた。




「やった!じゃあ、…チェックメイト。」





「は?」





ボードを見るといつの間にか
僕のキングは終わっていた




「何で…いつのまに…!」



会話をしていて見落としたのか?

自分が負けるなんてありえない



狐につままれたような感覚に浸っていると



「“いつでも”鄙の家に行ってもいいんだよね」



満面の笑みの生一に、しまったと思う鄙び

これからの面倒事の予想にこめかみを押させた


そして紅茶を飲もうとしたら
すでに紅茶は冷めきっていた