「そうですよ、差し入れの飲み物だって山根にはミルクティーで、僕らはコーヒーだったじゃないですか」

ん?

「君らは徹夜になるでしょう?」

倉坂さんが、無表情に淡々と反論する姿は、何だか先生に見えてきた。

と、言うか、意外にも、倉坂さんはおしゃべりに興じてる?

仕事以外で、同僚と話しているのは初めて見たかもしれないなぁ。

まぁ、皆も、真夜中のテンションで気晴らしコミュニケーションなんだろうけれど。

例え、それがチョコレートをくれるかくれないかの、まるで子供のような雑談だったとしても、なんだか新鮮だわ。

「差し入れに差をつけちゃダメですよ~。倉坂先輩」

「差も何も、僕はコーヒーを飲んでいる山根さんを見たことがないですから、コーヒー以外にしたまでで」

倉坂さんの言葉に、何故か静まり返ったフロアに、救急車らしきサイレンが通り過ぎる。

「…………」

「…………」

「そうですか、先輩」

「仕事中です。仕事に戻りなさい」

「そうですね。そうしますか」

なんだか白々とした空気の中、皆それぞれにモニターに向かう。


……男の人達って、よくわからないよね。


口の中のチョコレートを舌先で転がして私もモニターに向き直った。


残業中、疲れた時には甘いものが良いのなら、私も今度はチョコレート持参しようかな。


そんな事を考えながら。