「……それで、何故、私はここに来たのでしょうか?」

濃厚なチーズの匂いに、落ち着いた証明とBGM。
レンガ造りの店内は相変わらずお洒落で、今日は咲良さんもいない。

いつもと言われればいつもの、大木さんのお店のボックスシートに座っていた。

「それはですね。定時で上がった山根さんを捕まえて、俺が有無を言わせずに店に入ったからですよ」

……そう。
お仕事が終わって、今日は残業の牧野さんに手を振られつつ、エレベーターに乗って……会社を出たところで倉坂さんに腕を捕まれた。

「ちょっといいですか」

と、言われて一瞬パニックになって、無言で腕を引かれながら歩いて……

また騒ぎになるのも嫌なので、付いてきた私も私だけれど。

出されたお水をのんで、テーブルに置くと、とても楽しそうな無表情を睨む。


「それで、な、なにか用ですか?」

「デートをしてみようかと思いまして」

「ああ、デートを……」

……って、おい。

「これはデートって言いません。どちらかと言うと拉致です!」

「主観の問題ですね」

「普通にお誘いして下さい」

「誘ったら逃げますでしょう?」

……逃げるだろうなぁ。

「からかうのはやめて下さい!」

「真剣になっても、逃げますでしょう」

「…………」

「襲いませんから、落ち着いてください」

「し、信用してもいいと?」

「時と場合によります」

どっちですか!