千聖と私は食欲もなく、一人でお風呂に入るのも怖いし、第一そんな行動起こす気力もないので、帰ってきた時と同じようにずっと話を続けていた。





話を整理していたら、
気づいたことや
わかったことがたくさんある。



今日、玲奈の様子がおかしくなったのは、放課後の教室に私達しかいなかった時であるということ。



玲奈が頭を振り回していたとき、私達に逃げてと言ったのはきっと玲奈だ。だとしたらやっぱり、玲奈の身体がなにかに操られていたのではないかということ。


今の時点ではその原因は『ヒトガタ』なのではないかな、ということ。



逃げるとき聞こえたあの声は、やはり千聖にも聞こえていたようだったこと。声の主は思い当たらなかった。




教室を出る間際に聞こえた私達を呼んだ声は、玲奈ではなく、『ヒトガタ』の声ではないかという事。



学校の外へ逃げるとき、自分の力で走っているというよりも、誰かに走らされているかのように軽快に走って逃げ切ることができたこと。



私達が大きな声で絶叫していたというのに、他のクラスの人や、先生が見にこなかったということ。



それ以前に、廊下を走っている途中で先生にも生徒にも、誰一人に合わなかったということ。


校門の外へ出た瞬間に明らかに聞こえた舌打ちは『ヒトガタ』の仕業だろうということ。



校門の外へ出て、帰ろうとした時、ふと、学校が視界に入ったが、いつもなら電気が点いているはずなのに、各教室全部真っ暗だったということ。



異様な程早く過ぎた時間。
帰ろうとしていた頃は夕焼けだったのに外に出たら真っ暗だったこと。




家へ帰る途中の道。人に一度も合わなかったこと。夜九時をすぎていたといってもいつもなら必ず3,4人には出会うのに。




「はぁ....やっぱ『ヒトガタ』が原因かな。話を整理してみると気持ち悪い事ばっかり…」


千聖がため息をつく。



「普通、こんなこと起きたら怖いはずなのに、立て続けに起きすぎて怖いって感覚が鈍ってきた。確かに怖いんだけど....足とか頭に感覚ないっていうか、なんかふわふわしてるんだよね…」

呟くように言った。



「私も、それわかるよ」





今日は色々疲れた。

もう何も考えたくない。
というか、考えられない。



ードサッ



ベッドに寝転んだ。

いつもなら幸福なひと時なんだけどな...





気持ち悪い…....








「あ、綾香...なにか、おかしい…」


「え?」



寝転んだばかりのベッドから身を起こす。


千聖が顔を強ばらせて天井を見上げている。

私もそれにつられて天井を見た。






「ええ??!」






私は自分の目を疑った。

見なれたいつもの白い天井の一部が丸く黒く染まっている。


そして...



気のせいなのかな…?
なにか...動いているように見えた。









ーミシッ





天井が破壊される音がした。


何が起こってもすぐ対応できるように身構えた。
さっきから怖いことしか起きない。

なんとも不運なことだが、
そのおかげで少しだけ恐怖に対しての抗体ができ、今は落ち着きと冷静をなんとか保つことができている。

千聖も驚いているようだが、すぐ行動できるように鋭い天井の黒いところをきっと鋭い目つきで見つめている。






天井の黒い丸は徐々に天井を突き破る。

硬い天井の筈なのに、今はブラックホールのように滑らかな動きをして....





黒い丸は次第に大きくなり、少しづつ少しづつ、天井を突き破る。


徐々に出てきた黒い丸は頭だと判断できた。


私達に顔を向けていない。

見てはいけないと思いながらも目が離せない。



次に、ひっくり返されると必死にあがく虫の脚のように、バタバタと動く腕と足も見えてきた。





遂に…天井から出てきてしまう…。

ーゴクッ。...覚悟はできた。








ーーズタンッ









「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」









玲奈が出していたような低くて枯れたような唸り声を出すそれは、なんとも不気味だった。




覚悟してたのに怯えて即座に動くことのできない私達の目の前には、







顔が真っ白でおかしなほど小さく、目は黒目のみ。
手足が細く、不自然なほど長くて、
胴体はガッチリしている。身体は真っ黒でヌメヌメしている。
そのヌメヌメの正体は部屋のライトに照らされて赤い液体だということがわかった。


まるで悪魔のような姿だった...



私達の恐怖でいっぱいの顔を見た悪魔は、口裂け女のように、耳まで裂けた口でにやりと笑って、おもちゃを買ってもらい、嬉しそうにはしゃぐ子供のように地団駄を踏んで喜んでいた。