「じゃあ希鶴くんのためにも、この冬休みに舞は勉強だけじゃなくて料理の特訓もしないとね」
「は?なんで?」
「なんでじゃないでしょ。舞は希鶴くんが気に入ってくれてるお母さんの味、ちょっとは覚えなさいよ。なんたって、希鶴くんは将来舞のことお嫁さんにもらってくれるって約束してくれてるんだか………」
「……ちょちょ、ちょっとぉッお母さんッ!!」
とんでもないことを言い出したお母さんを慌てて止める。
「何よ、舞ったら。大きな声出しちゃって」
「何よ、じゃないよ!もう、やめてよッ!いったいいつの話してんのッ!」
「希鶴くんからのプロポーズのこと?そうね、ええっと。あれはたしか、希鶴くんのお誕生日に、舞が『きーちゃん、なにがほしい?』って聞いたときだったかしら。そのときたしかに希鶴くんは『おおきくなったら、まいちゃんをおよめさんにほしい』って……」
「そうじゃなくて!そういうこと聞いてんじゃなくてぇッ!!……もうあたしら高校生なんだよッ!?いい加減小学生の頃の話持ち出すとか、冗談でも痛すぎるからやめてよね!!お母さんのお気に入りの希鶴だってそんな話出されたら気を悪くするに決まってんでしょっ、もうほんとやめてよッ!!バカみたいじゃん!!」
大昔の話を蒸し返してくるお母さんが恥ずかしいのと、鬼軍曹にキレられるのが恐ろしくてあたしは必死で言い募るけど。
希鶴はたいして気にする様子もなく、笑顔でやんわりこの話題をスルーしようとする。
なにそのオトナ対応。
これじゃ大騒ぎしてるあたしの方が自意識過剰な痛い人みたいじゃないか!!
おまえのそういうところがニクいんだ!!いつもいつも人のことお子様扱いで自分だけオトナぶりやがって!!


