「あら、舞。もう帰ったの?」
好青年風な雰囲気を演じていた希鶴の豹変には気付かない様子で、お母さんがあたしに話しかけてくる。
「あんた今日は遅くなるんじゃなかったの?」
「あ、いや。………遊ぶはずだった相手が、お腹壊しちゃってそれどころじゃなくなっちゃってさ……」
帰る道々考えていたもっともらしいウソをつらつら述べてみる。
今日は「デートに行く」じゃなくて「ちょっとトモダチと遊んでくる」って言ってあったせいもあって、お母さんは特に疑う様子もなく「そりゃ残念ねえ。あんたもツイてないわね」なんて言う。
「っていうかさ。……なんでまたウチに鬼ぐ……っ、希鶴がいるの?」
「希鶴くん、家だと集中出来ないからって、お父さんの書斎、勉強部屋に貸してほしいって言って。ねえ?」
「はい。いつも感謝しています」
希鶴はお母さんに向けてにっこり笑う。
学校じゃいつも無口無表情の無愛想だけど、「千賀くんって、たまに見せるあの笑顔がたまんない!」って一部の女の子たちがレア扱いして騒いでるのをあたしも知っている。
無駄に顔が整っているだけに、嘘くさいその笑顔はあたしの目から見ても無駄眩しい……。


