どうしてもママ、子供のまま。



「あら、おはよう朱美ちゃん。土曜出勤なんて珍しいわね」



会社に入るなり、元気のいいこのみさんに迎えられる。




『あ、はい。先週このみさんのお家にお邪魔したじゃないですか、その前の週のが残ってたみたいで』




私は自分のディスクに座る。
隣にあったパソコンの電源を、ボタン一つで起動させた。





「あら。そうだったんだ。今週の分は大丈夫だったの?」


『はい、今週分のは、残業も挟んだので…それよりこのみさんも、なんで今日出勤なんですか?』


「んふふ、実は私もね、先週ぶんのが残ってたのよ」


『あ!そうなんですか!一緒ですね』


「あの日が楽しみで仕事なんて浮かれてたのかも」


『あはは、私もです』






お互いがやる目の場所は、個々のパソコン。
キーボードを打つ音が、カチャカチャと響く部屋で、私たちは笑いながら話していた。





このみさんのお家にお邪魔して、もう一週間が立つ。
そして明日は、DNA検査の日。
楽しみなような、楽しみじゃないような…



私は目の前のパソコン作業に集中した。

私が今やっている作業は、ホームページの編集。
年末なので、休社期間を記入する。
それだけ。
5分ちょっとで終わる。


隣のこのみさんも、パソコンに集中していた。
たまに目の間を擦りながら。
疲れてるんだろうな、と思った。










『ふぅ』

私は一通り作業を終えた。
マウスを使って、パソコンをシャットダウンする。



真っ暗になったパソコンの画面には、反射した私の顔が映った。












『えと…じゃあ、私これで失礼しますね』


「あら、早いのね、じゃあまたね、バイバーイ」




バイバイの合図に、左手を私に振るこのみさん。
その左手の薬指には、キラキラと光る………指輪!!?









『え!?このみさん、え!?……それ』


「ん?あぁ、これ?」




私が指差す先はこのみさんの手。
私の視線を辿っていって、自分の薬指を撫でるこのみさん。


そして照れ臭そうに…言った。






「婚約……してるの」



『え!!?このみさん彼氏いたんですか!?』



「なっ…!私だって彼氏くらい居るわよ〜!そしてね、挙式が、明後日で…」



『えぇ!?』




「朱美ちゃんと佑くんの家に、行ってない?招待状」




『多分…まだです……』




「もうすぐ行くわ!きっと来てね」







それじゃあまたね、と、このみさんは笑ってまたパソコンに向かった。
私の口はぽかんと空いてる。



そうだったんだ……









このみさん………婚約してたんだ!











作業室を出るとき、出口で大声で私は言った。


『このみさん、お幸せに!!!!!』







もちろんその声が耳に届いたこのみさんは、指輪の光る左手で口を隠しながら、赤面にして笑った。