赤いヒール、黒のコート。

ケバくもなく、薄すぎでもなく施されたメイク。

一目でわかる、飲み屋の人。

「あーあ…濡れちゃってるじゃん」

椅子に座ったあたしの前に、しゃがみこむ。

覗き込まれたその顔は、きれいに整っていて見とれてしまった。

「うちくる?…飲み屋だけど」

その言葉に、自然と頷いていた。

「あ…あのっ」

隣を歩く女の人に声をかけた。

「名前…」
「ああ…河崎佐子(コウザキサコ)よ」

名乗った後に佐子さんは、気遣わなくていいのに…と付け加えた。