***********
「せんせ~熊谷さんがいらっしゃいました」
少しテンションが高めの原さんの声が聞こえると同時に、僕のテンションも上がった。
「わかりました。僕の部屋にお通ししてください」
原さんに返事をすると「わかりました」とニヤついた顔を少しだけ覗かせて言った。
「あら、先生、なんだかいつもより元気ですね」
診察していると、何人かの患者さんに同じことを言われた。
患者さんからも指摘されるくらい、僕は浮き足立っているのだろうか。
「そうですか?いつもと変わらないですよ。それより西山さんの体調はどうですか?」
西山さんは、うちで胃癌が見つかり他の病院で手術した患者さんだ。
退院後はうちで経過観察をしている患者さんだ。
とても明るく、ふくよかなおばちゃんだったが、なかなか食べることができないということもあり、かなり痩せてしまった。
一時期は、精神的にっも参っていたようだったが、お孫さんが生まれ元気を取り戻してくれた。
「調子はいいよ。孫に離乳食を食べさせるのが楽しみでな」
「へ~離乳食ですか」
「あぁ、おいしそうに食べているのを見てると、自分も頑張って長生きせなあかんって思うんや」
「そうですか。それは、とても良いことですね」
『病は気から』と言うが、本当にそうである。
気の持ちよう1つで良くなることもあるのだから。
「あと、先生に会えるのも楽しみだしね」
「えっ?僕ですか?」
「院長先生より、若い先生に診てもらった元気になる」
そう言うと、西山さんは今日一番の笑顔を見せてくれた。
「そうですか。それはありがたいです。では、また来月来てくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
最後は丁寧に頭を下げてくれ、診察室を出て行った。そして、午前診は終わった。
「せんせ~お疲れ様でした。お弁当どうぞ」
原さんがニヤニヤしながらお弁当を持ってきてくれた。
いつもなら休憩室に置いてあるというのに。
「ありがとうございます」
「いいえ、せんせ~頑張ってくださいね」
ウインクのおまけ付きだ。何をどう頑張れと言うのだ。
自分でもどう進めるかを決めていないというのに。

