僕が食べ始めないと彼女も食べにくいだろうから、先に手を伸ばし、「熊谷さんもどうぞ」と勧めた。
「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」
熊谷さんは、ニッコリと笑うと、僕の後に続き手を伸ばした。
やっぱり美味しい。
僕が食べたのは、チョコチップ入りのクッキーだった。
サックっとした食感と甘すぎないのがいい。
「やっぱり美味しい!」
目の前の熊谷さんは、目尻を下げて、嬉しそうに一口一口を味わうように食べていた。
そんな彼女を見ているだけで、こちらの顔も緩んでくる。
「甘いものお好きですか?」
こんなに美味しそうに食べるのだから、きっと好きだろう。
「はい。甘いものに目がなくて」
やっぱりな。
「そうなんですか?実は僕もなんです」
「先生もですか?スイーツ男子ですね」
雄哉には『草食男子』と言われたが、ここでは『スイーツ男子』か。
「そうですね。否定はできませんね」
「じゃあ、お店もよくご存知なのですか?」
「いえ、自分ではなかなか行かないですね」
僕は、甘いものが好きだが、加奈はそうではないので行くとなったら一人でということになる。
さすがにケーキ屋さんに一人で行くのは勇気がいる。
実際は、患者さんからいただいた物を食べるくらいだ。
「そうなんですね。私も雑誌に載っているお店にも行きたいのですが、なかなか行けなくて・・・」
「そうですよね。なかなか時間ないですよね」
熊谷さんと話すのは、心地よかった。
お互いに好きな物の話をしているからか、リラックスできているような気がした。
「そうですね」
嬉しそうに食べている熊谷さんを見ているだけで癒される。
最近感じたことがない温かい気持ちになれた。
そんな風に思っていると、熊谷さんは時計を見て
「あっ、仕事をしないと」
と慌てて立ち上がり、
「ごちそうさまでした」と頭を下げ作業に戻った。

