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「今週末、研修が入ったから会えなくなったの」
「うん、わかった」
これで何回目、いや何十回目だろう・・・デートのキャンセルは。
「じゃあ、また来週」
と次の約束をしていたのは、付き合って2、3年までで、最近は彼女から連絡が来るまで待つようになっていた。
待つようになったというのは体の良い言い方で、僕から連絡しなくなったというのが正しいのかもしれない。
僕の恋人の高階加奈(たかしな かな)は、塾の講師をしている。
大学時代から今の塾でバイトをしていて、教員採用試験に落ちたところを塾長が引っ張ってくれたらしい。
塾講師だから、僕が仕事が終わる頃に仕事が始まるので、仕事帰りに会うなんてことはまずない。
水曜日と日曜日は休みだが、水曜日は僕が別の病院の宿直に入っているので、実質会えるのは日曜日のみ。
その日曜日も彼女が研修だったり、僕が学会だったりと会えないことも多い。
それでも付き合って6年が経ち、僕も30歳を越え、彼女も29歳になとうとしているので、結婚も考えないといけないのだろうが、なかなか気が乗らない。
「〇〇ちゃんと△△ちゃんが来月結婚するんやって。
二人共付き合って1年経ってないんやで。うちらなんて6年なのにね」
なんて言われる度に、ごまかしてきた。
僕は、こんな奴なんだから、結婚したいのなら別の人をさがしてくれてもいいとさえ思う時がある。
そう、僕は、結婚願望がないのだ。
それなのに、彼女と別れようとしないのもずるいというのもわかっている。
彼女を傷つけたくないとか、都合の良いことばかり並べて、揉め事を避けているのもわかっている。
彼女は、とてもしっかりした子で、僕は頼りっぱなしだ。
2人でいる時は、彼女がリードしてくれる。
デートや旅行の行き先などは、彼女が決めてくれる。
彼女といると楽なんだ。
甘えようと思ったら、甘えさせてくれるだろう。
居心地もよい。
会話だって弾む。
なのに、結婚となると、現実味を帯びないのはなぜだろうか。
「彼女のことが好きか?」と聞かれたら、「好き」だと答えるだろう。
もし、彼女が結婚したいのなら、プロポーズも彼女がするのが容易に想像できるくらいの気の強さを持っている。
でも、もし、彼女にプロポーズされたら、僕は受けるのだろうか。

