「こんにちは、健太くんどうした?」
診察室に現れたのは、近所に住む小学生の健太くんだった。
出勤するときに登校途中の彼に会うのだ。
いつも彼は元気に挨拶をしてくれる。
今朝も元気な姿を見たのだが、今は元気がない。
「学校から帰ってきたら、しんどいって言うんで熱をはかったら、39度あって・・・」
丸椅子に座る健太くんを支えるように立っていた母親が答えてくれた。
「健太くん、いつからしんどかった?」
「給食を食べてるとき・・・」
「そうか、しんどいのに頑張って帰ってきたんやな。えらいな」
僕がそう言うと、彼は「へへっ」と照れくさそうに笑った。
「それでもな、無理したらあかんぞ。しんどかったら保健室行ったらいいんやからな」
「だって・・・保健室に行ったら、別の病院に連れて行かれるんじゃないの?」
母親の顔を見上げながら不安そうに言った言葉の真意は、僕にはわからなかった。
「どうだろうね。お母さんが迎えにきてくれるように連絡してくれるんじゃないか?」
怪我とかだったら、学校から病院へ連れて行ってくれるだろうが、発熱とかいった内科的なものは保護者に迎えに来てもらうことが多いだろう。
「そうなん?じゃあ、我慢するんじゃなかった」
僕の言葉に、健太くんは安心したように目を閉じた。
「別の病院に行くのが嫌やったんか?」
「うん、キリン先生に診て欲しかった」
眉間に皺を寄せながらも、言ってくれた言葉は意外なもので、正直驚いた。
「そうか、ありがとうな」
僕は、照れくさいのを隠すように健太くんの頭をクシャクシャと撫でてやった。
そうすると、彼も再び照れくさそうに笑った。

