溜息混じりに歩いていけば、ヒールが立てるコツコツという音でさえ切なく感じる。

「あれ? 今帰り?」

空しく丸めた背中に声をかけられ顔を上げると、そこには社内でもわりと人気のある中谷君がいた。

今日もなかなかのイケメンぷりじゃないのよ。

てか、君こそこんな日に何してんのさ。
こんな空しさ全開の女子社員になんか声をかけてないで、さっさと可愛い彼女のところへ行きなさいよ。

恨めしい私の心中など全く察する気配のない中谷君は、いつもとなんら変わらない態度で接してきた。

「さすがに、今日はみんな帰るの早いよね」

言って、少しばかりの笑みを浮かべている。

だから、君もでしょ。
さっさとお帰りなさいっての。

私は、胸中の捻じ曲がった気持ちを抱えて、中谷君と社の外に出た。
瞬間、頬を切るほどの冷たい風が通り過ぎ身を縮める。

「さむっ」

外は、独り身にはとっても厳しい寒さだった。
社内でぬくぬくしていた体が、あっという間に冷えていく。

中谷君も、隣でコートの襟を立て、合わせるようにしている。
その姿は、とても寒そうだ。

にしても。
襟を立てると、何でかちょっとかっこよさが増すのは、私の主観だろうか。
さっきよりも、更に男前に見えてきたぞ、中谷君。

そもそも、中谷君は人気があるのよね。
彼女がいるくせに、しょっちゅう女性社員に話しかけられてるのを見かけるもの。
私は、そういうモテ男に関る気なんて無いから、はなから近づいたりしないけどね。

あ、言っとくけど。
相手にされるわけが無いから近づかない、とかじゃないからね。

チヤホヤされてる男なんて、性格悪いに決まってるのよ。
これ、私の主観ですが、何か?

そんなことを思いつつも、襟を立てて男前が増した中谷君にちょっとばかり見惚れてしまう。