空が青いな、とても青い、眩しい。窓際の席って、空が良く見えるんだなっと、感心しつつ、授業ノートをせかせかと録るクラスメイトを横目で見ながら、美優は思った。
物語を作る上で大切なのは登場人物のキャラクターの濃さだと思う。喧嘩が強かったり、生徒会に属していたり、容姿が物凄く良かったり、まぁ、例を挙げるならそんなとこだ 。
何を言いたいんだ、と思うかもしれない、要は自分は役を割り振れる程の人物ではないということ、言わゆる、モブキャラと呼ばれるものである。 モブキャラ…。頭の中で理解しつつも、現実はつらい。

授業のノートを録りつつ、端の方で、キャラ一覧表を作りながら思った。




「ねぇ、優樹菜、クラスメイト立ち居ちをキャラ一覧表に書いてみた。ちなみに優樹菜はここね。」
放課後、何処の部活にも属していない美優は、同じく属していない、親友の優樹菜と 一緒に帰るのが日課だった。

ノートの切れ端を顔の横まで持って いき、人差し指で真ん中あたりを示した。

「美優、力作なのは、良くわかるんだけど、どうしたの。何かあったの?てか、真ん中って地味にやだな、嫌がらせかっ」
手で突っ込みをいれつつ半ば真剣に心配してくれているのであろう言動に重かった心が少し軽くなる。

「うとね、小説を書いて見ようと思って。あ、大丈夫だよ、あたし外野のモブキャラだし」

人差し指で鉛筆で引いた四角い枠の外にある 私 という文字を指でなぞる。

「わ、自己評価ひっくー、びっくりだわ~。小説?それで、何でこんなことしてんの?」

話しが長くなりそうだった。ので、帰り道にある、喫茶店、チョロクロに寄ることにした。注文を済ませ喫茶店の入り口付近の適当な席に移動する。

「小説書いてたんだけどさー。適当なキャラを作ったら現実味がなくなって、感情移入って言うのかな?が出来なくってさ、やっぱ、空想でも、モデルが欲しいなって思って、クラスの中で主要人物になりそうな人を探していたわけです。」

「そっか、それで、主役、はれそうな人はいた?」
注文したレモンティーを啜りながら、優樹菜が訊いた。前髪が邪魔なのか、右手でストローを持ちながら、左手で前髪を耳にかける。ついつい、尖った唇や、ちらりとた首に目がいってしまう。色っぽいなっと美優は思った。
「美優?」

「あ、ごめっ、えっとね、佐崎君とか良いかなって思って。」

佐崎君とは、クラスで一番人気がある男の子である。生徒会会長で野球部のキャプテン、おまけに、学年首位を2年間キープしているという噂まである。(最近は虐めに繋がるとかで貼り出されない。)

身長は高く180センチ以上ある。スポーツマン精神が垣間見える短めに切った髪と健康的に日焼けした肌、彫りの深い顔だちなど相まって、アラブの王子様のようなエキゾチックな魅力がある。

彼が野球をやるとなぜか、むさ苦しくなく、球が彼に打たれるために飛んできているように見える。また、代表として、校内のイベント毎にする挨拶は、はっきりと声が大きいだけではなく、早さや、行間の間までがちょうど良い。

彼ほど2次元が似合う男の子はいないであろうと美優は考えていた。

「やっぱり~。佐崎しかいないよねン。うん、わかってた。」

「でも問題があるんだよ。書くのにっ。」

「何の問題があんの?そんまま書けば良いじゃん。あいつの存在もはや2次元ッ!」

「書いてるの恋愛小説なんだよね。」

「……はぁ?、てか、美優、恋愛したこと無いじゃん、そもそも、あ、佐崎って。」

「そうなの。佐崎君、難攻不落なんだよ。月に何回も告白受けてるのに、誰ともくっつかないんだよー。」

「男が好きって噂もあるしなー。」

二人で暫くの間、沈黙していると、突然、優樹菜がボソボソと何かを呟いた。

「……いいんじゃ、」

「ちょ、ごめっ、もう一回言って、聞こえなかった。」

「頑張ればいいんじゃって言ったの!だって良く良く考えてみ?佐崎落とせば観察し放題だし、何より、感情移入どころジャナイッて!恋愛小説書くんなら、恋愛しなきゃ駄目ッショ。」

優樹菜が目をキラキラと輝かせながら、嬉々と話す。

「確かに一理あるけど、でもさ、どうやって?落とすの?彼は主役で私はモブ。」

机の上に広げている、クラスメイトの立ち居ち一覧表の名前を人差し指でなぞる。指に飲んでいるアイスコーヒーの水滴がついていたようで、じんわりと文字が滲んだ。

「私に任せときッ」
おかしな流れになったなと思ったが、長年、佐崎君に片思いしていたこともあり、まぁ、任せてみても良いかなと思った。

青かった空が、オレンジ色に染まり、帰りの時刻を知らせていた。