「精神科の先生の所、行こう?」
教諭、作馬祐子は智音逢沙を言葉通り手を引いて精神科医の賀来の元に連れて行った。
逢沙は幼い頃からイジメに遭い続け、守ってくれていた母親が亡くなってから感情が無くなっていったらしいと逢沙の担任の教諭から聞いた。
逢沙の腕には数多の傷跡が付いている。
死にたいと願う逢沙が毎日繰り返している、リストカットの痕だ。
逢沙は既に生きる屍状態だった。
食事も殆ど取らなかった。
「ほら逢沙、行こ」
そう言ったのは逢沙の双子の兄、和翔だった。
1日中逢沙の隣にいて、1日中逢沙の世話をしている。
5人兄妹の長男の和翔は、昔はもっとおっとりしていたが、逢沙がこんな状態になってからは随分しっかりした人になった。
逢沙はぎゅっと、自らの喉を摘んでいた。
それは逢沙が見せる、唯一の感情だった。
「逢沙、それやっちゃ駄目だよ」
和翔は逢沙の、作馬に引かれる方と反対の手を握った。