その夜、三人で談話を楽しんでいた。

「本当に性悪若は!花嫁支度のための旅籠までもこんな東屋みたいなところとは・・・」
早苗は、まだ照姫の兄で、現藩主の林忠孝への愚痴が止まらないでいた。

「早苗、忠孝兄様はいい人よ。私、ずっと城の奥深くでの軟禁生活だったから、藩士の家に嫁がせてくれるなんて、それだけで夢のような話だわ。これまでの旅も楽しかった。初めてのことばかりで、目に映るものすべてが新鮮で、御伽草子の中にいる気持ちよ。」
照姫は、目をキラキラさせて答える。

「照姫様・・・・わたくしめは・・ずっと・・」

そんな磐城の言葉を遮るように、大きな声が照姫の部屋に響き渡った。

「誰か、赤子を取り上げられる者はおりませんか。なじみの取り上げ婆が、どうにも見つからないのです。」
必死さを窺がわせる男の叫び声だ。

「姫様、私、少し行ってまいります。出産となると、一大事です。」
早苗が男の声につられてか、必要以上に大声で言う。

「私も参ります!。」

「姫様は、ここにいてください。取り上げたことないでしょう。足手まといになります。」

「・・・はい。」


そう言い終わるが先か、もう早苗は猛ダッシュで部屋を飛び出していた。
数秒後には、下の方から早苗の

「この取り上げに関しては日本一、と称された早苗にお任せあれ!」
という威勢が響いてきた。


「・・・このような時の女人は凄いですね・・。」
「ええ・・・」

二人とも、早苗の気迫にたじろぎを隠せなかった。