胸の鼓動が抑えられない。
(人生で一番緊張したかも。)
校舎裏。
さくらは胸に手を当てて壁にもたれていた。
今までは、見かけたら声を掛けるなんて普通の事だった。
当たり前の事だった。
幼馴染の関係。
『お前に何が分かるんだよ!俺は、俺は…、野球が出来なくなったらもう終わりなんだよ!』
階段の踊り場で言われたあの日からまともに会話をしていなかった。
出来なかった。
勝利の気持ちと、自分が何とかしなければ、との焦りが相まって、声を掛けるのが怖かった。
『ん?どうした?』
それでも何事も無かったかのように、平然と返事をしてくれる勝利がありがたかった。
(きっと、伝わったはず。)
『勝利の一番好きな場所!』
(勝利…、待ってるよ。)

