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執事が運転する黒のリムジンでワイン城の入り口に到着すると、許嫁は先に来て待っていた。
自己紹介を終えると、早速、ワイン畑を見に行きましょうと言われ、麻里奈は言われたままついて行く事にした。
「神戸ワインは、日本でも有数の素晴らしいワインでね、丁度、この9月頃から収穫が始まるんだよ。」
「…。」
「麻里奈はワインは好きかい?好きなら麻里奈専用のこのワイン城よりも大きなワイン畑と生産工場を作らせるよ。」
「…。」
21歳の麻里奈に、41歳の許嫁。
関西一の押部谷家に負けず劣らずの大企業の息子らしく、随所に自分の財力、知識、権力を示したがる。
麻里奈にとって、ただただ虚しい時間が過ぎて行った。
レストランで向かい合って食事をしながらも、ひたすらに話してくる許嫁に目を合わす事も無く、さりげなく周りで食事をしている家族連れを見つめる。
「あ、七海君?」
思わず目を奪われる。
20代の若いカップルを見かける度に、彼氏側を七海と見間違えてしまう。
(私…、やっぱり七海君の事、好きなんだな…。)
「やっぱり、ワインは赤が好きなんだ。得意先でもたいした事ないけど10万円を超えるワインを扱っている企業があって…。」
「あの!」
暗い表情の麻里奈に構う事無く、話し続ける許嫁に我慢出来なくなり、顔を上げて話しかけた。

